きっと今日と違う明日が来る、ってあなたは信じられるかな?
「今日がもし。今日がもし、いつもの日だったら、何の問題もなかったはず。でも忘れていた。今日が最悪な日だってことを。」(時をかける少女/2006)
Appleのトップページが突如、ティザー画像に切り替わった。内容は日本時間11月17日深夜00:00、AppleからiTunesについての発表がある、とだけ。何が起こるかはわからない。でもいつものAppleの発表とは明らかに違う。Mac App StoreやiOS4.2の発表、ビートルズ楽曲やソニー系楽曲の取り扱い開始…いろいろ考えられそうだがここまでやるだろうか。iTunesのアプリケーション・サービスの根幹に関わること、でもなければこんな発表の仕方は考えられない。
これまでのiTunesの歴史をおさらいするために "時計の針を戻して" 、iTunesが生まれた瞬間までタイムリープしよう。
iTunesは同じ場所で10年間、ファイルを同期し続けてきた
およそ10年前、2001年1月。iTunesの最初のバージョンが発表された。このときの機能は実に単純だった。CDからデータをリッピングし、MP3に変換。プレイリストを作って曲を聴くだけの極々、単純なソフト。
しかしその10ヶ月後、iTunesの運命を変える偉大なプロダクトが誕生する。iPod。「iTunes Libraryの全てを持ち運ぶ」ために作られた、ハードディスクを内蔵した新世代の携帯音楽プレイヤーは2001年11月17日、つまり9年前の "明日"、発売を開始した。同時にiTunesのバージョン2はiPodの登場によって、iTunesはとても重要な機能を搭載することになる。iPodと同期することで、iTunesとiPodの中身を丸まる同期することができるようになった。今日までこのファイルの同期こそがiTunes最強の武器であることは何の疑いの余地もない。
2002年7月。バージョン3はiTunes Music Storeをサポート。iTunesが「ネットの向こうがわ」と繋がった瞬間だ。iTunesはいつでも楽曲を購入できる自由を手に入れた。バージョンが7まで進むとiTunes Music StoreはiTunes Storeに改名。アメリカでは映画の購入もできるようになった。
2007年はiTunesにとってiPod以来の大切なパートナーが誕生する年となった。iPhone発表。iPhoneはiPodの "Sync" に倣い、音楽・写真・映像ファイルだけでなく、メールや住所録、カレンダーといった情報までiTunesを経由して同期する。iTunesはもうとっくにただの「音楽管理ソフト」ではなくなっていた。そしてアプリケーションのインストールができるようになったiPhone 3Gの発売でその流れは更に加速する。
音楽、映像に続く第三のStore、iPhone App Storeのオープン。後日iTunes Storeの中で最大の稼ぎ手となるApp Storeの登場で、iTunesは完全に、ファイルの管理、認証、転送を一手に引き受ける巨大なアプリケーションとなった。ここまでが、今に続くiTunesの歴史の全て。
iTunes最大の武器である「同期」が今失われようとしている
10年。あれから10年が経った。10年前、そこには何もなかった。手持ちの十数枚のCDのデータが収まった小さなデジタルライブラリ。それが月日を経るうちに、写真、映像、書籍といったあらゆるメディアを飲み込み、最終的には自身と同列であるはずのアプリケーションすらも飲み込んでしまった。iTunesは「iTunes」という名前がふさわしくないほど、複雑で鈍重で、重大な存在になった。この歴史はあなたの使っているハードディスクがよく知っているはずだ。iTunes Libraryはこの10年でどれだけ肥大化したことか。
ハードディスクを圧迫するくらいならまだいい。ハードディスク容量は年々巨大化しているのだからどんな巨大なファイルだって収まる。しかしそのiTunes Libraryの図体のデカさ故にまた別の問題が生じる。完全な同期が難しくなってくるのだ。iPhoneはあらゆるデータ全てを飲み込めるほど巨大な容量を持っていない。さらに同期すべき機器は年々増えていく、iPod、iPhone、iPad、もう一台のMac、AppleTV、そしてまだ見ぬ新しいAppleデバイス…。それ全てをわざわざMacに直接繋がなければならないのか。繋いだとしてもすべてを同期できるわけでもないのに。今iTunesは自らの機能肥大化と対応機器の拡大によって、己の武器を失いつつある。
そう。その器は歪んでいる、とは言わないが、もはやiTunes Libraryが入るにはMacやPCは器が小さすぎるのだ。宇宙世紀の人々が重力に縛られた地球から自由を求め宇宙に渡り住んだように、iTunesも束縛されることのない新天地へ移動する必要がある。容量と同期。この2つの問題を解決する方法はもはや一つしかない。iTunes Libraryをネットの向こう側、クラウドに移送し、常にネットを使って機器とクラウドをつなげ続ける。そしてここで今一度iPodの誕生理念を思い出そう。「iTunes Libraryの全てを持ち運ぶ」ことだ。ならばもう一度iTunes Libraryの全てを持ち運べるようにiTunesを変えることが必要なのだ。場合によってはiTunesというその名前も変える必要がある、かもしれない。
明日、いつもと同じ一日が、忘れられない一日になる
今日がもし、いつもの日なら、明日もまたいつもの日に違いない。9年前の今日、iPod前夜にいた人々は誰もがそう思っていただろう。しかし実際は9年前の明日は今までとは違う、特別な日だった。歴史は大きく変わった。知っての通り、AppleはiPodによって大きな成功を収め、Microsoftを凌駕するほどの存在に返り咲いた。と同時に、世界の文化や生活に大きく関わるほどの変化をもたらした。あれから9年後の今日。
いつもの日が続くことはとてもうれしいことだ。だが変化がない日々の中が本当に最高の日と言えるかはわからない。もしかするといつもの日を繰り返すうちに感覚が冷えきって、いつの間にか最悪の日になっているのかもしれない。
明日、何が起こるかわからない。何も起こらないかもしれない。わからないけど、今日と違うならきっとそれが最高の一日じゃないだろうか。
「明日、いつもと同じ一日が、忘れない一日になります。」ように。
