アイデアこそ至高。「横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力」
「小さい頃は 神様がいて 不思議に夢を かなえてくれた」
確かに神様はいたのだ。1997年までは。
横井軍平という人がいた。任天堂で商品開発に携わり、ウルトラハンドやラブテスター、光線中SP、そして現在の任天堂の礎を築いたゲーム&ウォッチ、ファミリーコンピューター、ゲームウォッチ…数々の任天堂プロダクトを開発した人物である。彼こそが「慎ましやかな花札メーカーを、数十億ドルが溢れる帝国に変えた」人物の一人であり、他界した後も「ゲームの神様」として尊敬される最高の "クリエイター" だ。「横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力」は既に絶版になっていた「横井軍平ゲーム館」を加筆修正を加えたもの。旧版は幻の名著と呼ばれなんとAmazonでは8万円のプレミアがついていた代物だ。本書の内容は横井氏がこれまで作り上げてきた任天堂プロダクトの開発秘話から成る。「ただおもちゃを作る話のどこが面白いのか」と思うかもしれない。しかしこれが抜群に面白い。彼の着眼点、発想力、思い切りの良さ、まじめさ、いい加減さ…どれをとっても一歩抜きん出ている。彼の有名な哲学「枯れた技術の水平思考」は最先端の技術を使うのではなく、使い古されたコストの安い技術とアイデアを組み合わせることで優れた製品を生み出そうという発想である。映画インセプションじゃないがこれはつまり「アイデアこそ至高」という考えである。アイデアこそが我々人類に残された最後のフロンティアであり、最高のエンターテイメントなのだ。
数々のヒット商品を生み出した横井氏。しかしゲームが好きな人なら知っている通り、彼が任天堂時代の最後期に手がけた「バーチャルボーイ」は任天堂史上最大の失敗として多くの人に記憶されている。バーチャルボーイは1995年に発表された世界初の3D(立体視)家庭用ゲーム機である。彼はバーチャルボーイ、続くゲームボーイポケットを開発した後、任天堂を退職。そして1997年、56歳という若さでこの世を去った。「3D」というアイデアはゲームの神様が任天堂に置いていった宿題だったのだろうか。バーチャルボーイ発売から15年の歳月を経て任天堂は再び3Dに取り組むことになる。

Nintendo 3DSが成功するかどうかはわからない。バーチャルボーイのように「失敗作」として人々に記憶されることになるかもしれない。3DSが成功するかどうか…それを決めるのは一つの要素しかない。アイデアだ。
…しかし1995年の当時、横井氏はなぜ「3D」という発想に至ったのだろうか。もちろんただの物珍しさだけで3Dを選択したわけではない。ちゃんと理由があるわけだけど、その答えはぜひ本書を読んで確かめてみてほしい。実はDSやWiiといった現在の任天堂につながる「思想」がそこには含まれている。人は限りある存在だが、考えやアイデアは時間をも飛び越えることができる。
