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PLUTO 8巻 - 遂に完結。アトムよ、父を超えろ。

2009.07.17

PLUTO 8巻 - 完結。アトムよ、父を超えろ。

アトムは憎しみと報復の世界といかに闘うのか

遂にPLUTO、完結。アトムとプルートゥ、雌雄を決する。時を同じくしてアブーラ博士によって地球を破壊するほどの「テロ」が行われようとしていた。

ロボットとは即ち少年である、と思い始めたのは数年前からだ。言うまでもなくロボットは純粋である。人間か書いたプログラム通りにしか動かない。人工知能、といっても所詮人工物だ。だからロボットにたとえ考える力があったとしてもそれは人間がプログラムした範囲でしかない。だから彼らには「心」がない。心がないから心を理解する事もできない。つまり彼らは "幼い" のだ。高い計算能力を持ったロボットでも、如何に人の役に立つロボットでも、大量破壊兵器であろうと、総じて幼いのである。

PLUTOの世界では世界最高の人工頭脳を持つとするアトムが唯一「心」を持っているという。心とはなんなのか、非常に説明が難しいところであるが、アトム、プルートゥや他の多くのロボットが「感情」をもっている。喜び、怒り、悲しみ…人間が持っているものと変わらない感情だ。感情とは面白いもので、伝播する能力を持っている。ネット上ではバイラルCMが流行ったり、ブログが炎上したりと、感情の伝播を見かける事が多い。世界中の優れたロボットを破壊し続けたプルートゥを動かしていたのも怒りの感情だった。しかしその怒りの感情も自らの中から生まれたものではない。生みの親であるアブーラ博士に植え付けられたものだ。伝染した怒りに任せて彼はロボット殺しを続けてきた。空虚だ、そんな事はわかってる、でも止められない。プルートゥと最後の決戦を挑むアトムもまた、ロボット刑事ゲジヒトの怒りの感情を移植されて復活した。怒り、憎しみの感情はウィルスのように互いに感染し、傷つけ合う。そしてまた新たな感染者が現れて…。現実の世界でも憎しみあうもの同士が戦争をし、テロを起こし、また憎しみが蔓延していく。ロボットもまた、同じ事を繰り返すのか。

しかしアトムには心がある。心とは一体なんなのか。それは相手を思いやる想像力かもしれないし、すべてを包み許す力なのかもしれない。だから心は「温かい」。もはや戦争から始まった憎しみの連鎖を受け止められるのはアトムの心しかない。その心を持って自分の怒りや憎しみが、本当に自分の中から出てきたものなのか、感情の向こうに正しい未来が待っているのか、考えていかなければならない。感情の代わりに心を伝播させることが人類最後の希望なのだ。

漫画の子どもたちから、漫画の神様へ

手塚先生がこの原作「地上最大のロボット」を描いた頃の戦争は一個のボタンを押すだけで核戦争が起こり、敵も味方も無に帰ってしまう「一瞬で終わる」戦争だった(ウォッチメンで描かれていたように)。だから手塚先生は単なる力自慢やそれによって無に帰った光景が如何に虚しいものかを描いた。そして時は流れ冷戦が終わった。そして訪れたのは報復に次ぐ報復、憎しみが憎しみを呼ぶ「終わらない」戦争だった。PLUTOもテロと報復の時代に合わせてテーマを再設定してある。また、手塚先生は誰もが知る「漫画の神様」であるが、弱点がないわけではない。「地上最大のロボット」でもすべてが終わっても何も変わらない、いずれ繰り返される、というニュアンスを含ませている通り、必ず「悲観」や「諦観」が含まれるのが手塚漫画の "クセ" だと思う。

しかし浦沢氏はそこに着地しない。PLUTOは予想された限界を乗り越え、進む物語だ。小さな生き物を前にしてアトムが自らの感情を制御するシーンはどうしても目頭が熱くなる、全体を見ても屈指のシーン。また、天馬博士とお茶の水博士、つまりアトムの生みの親と育ての親が対峙するシーンはさらに決定的だ。アトムといえど、もう手遅れだ、地球を救うなど不可能だと断じる天馬博士に対して、お茶の水博士はどうせ死ぬなら最後までやってみなければわからない。生みの親なのになぜアトムを信じないのか、と説く。このシーンはどうしてもアトムの生みの親=手塚先生に向けた言葉のような気がしてならない。そしてアトム自身もまた父親の想像を超え、自分の感情を制御し、世界を救うために飛び立つ。プルートゥも怪物と化した父親と最後の戦いへ向かう。PLUTOの世界のロボットたちは少しずつ幼さから開放されていく。少年から大人への第一歩を歩んでいく。

そして物語も原作とは少し違う結末を迎えることになるのだが…。それは実際に読んで確認していただきたい。原作にはない「最後の数ページ」は浦沢氏から天国の手塚先生への最後のメッセージであり、意思表示であり、挑戦状だ。天国で手塚先生が「まったく生意気な奴だ。俺ならもっといい作品が描けるんだ!!」と息巻いていたら願ったり叶ったりであろう。原作の完成度はとてつもないが、PLUTOはそれを超えんとする高い志と勇気とやさしさの物語である。天国の神様への挑戦権に十二分に値する作品に間違いない。


関連リンク:
WWW.AKIRAFUKUOKA.COM BLOG | PLUTO 4巻 - アトム、その父。
WWW.AKIRAFUKUOKA.COM BLOG | ロボットの感情が人間に限りなく近づくとき。「PLUTO 6巻」
WWW.AKIRAFUKUOKA.COM BLOG | PLUTO 7巻 - 浦沢直樹は手塚治虫よりもすこし、優しい。

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